内視鏡・腹腔鏡手術

拡大手術と予後改善の工夫

当科では、内視鏡を用いた手術の低侵襲下とともに高度に進行した癌に対して拡大手術を行うことにより、予後を改善する試みにも積極的に取り組んでいます。特に癌の再発や転移に対してもすぐに諦めることなく、外科手術を中心とした治療の適応を先ず検討しています。このような領域では設備ではなくて外科医の腕により手術可能かどうかが変わってきますので、ひとつの施設で切除不能といわれた場合でも他施設で意見を聞いてみることが大切です。

他施設で切除不能・予後3ヶ月と宣告された84歳・女性の再発胃癌例を拡大手術を施行し、術後2年半に渡って自宅で普通の生活が可能となったケースも経験しています。また、当施設では切除不能と判断した場合でも非侵襲的な方法を主体とする予後改善の工夫(切除不能な食道癌・肺癌・胆管癌などに対して食道・気管・胆管などの狭窄部に金属のステントを非手術的手段で挿入して機能回復を図ったり、原発性肝臓癌に対して肝動脈塞栓療法を放射線診断部の協力で行ったり)を積極的に行っています。
 

PPH(痔核・直腸脱の新しい治療法)

PPH とは Procedure for Prolapse & Hemorrhoids の略称で、1993年にイタリアのロンゴ博士により開発された新しい痔疾患の手術法のことです。

痔で多いのは疣痔と俗に言われている内痔核ですが、内痔核は肛門の静脈瘤で、従来の手術は静脈瘤の切除と静脈瘤へ流入する血管を結紮する術式が主流でした。

しかし、この術式では知覚神経の発達した肛門粘膜を切離するために術後の痛み、特に排便時の痛みがしばらくの間続くため、ある程度の入院治療が必要でした。また、痔核を全て切除しようとすると、肛門粘膜を取りすぎて肛門管の狭窄を来たしたり、肛門括約筋を傷つけて部分的な便失禁を来たすなどと言うこともゼロではありませんでした。そのため、痔には悩まされているが、手術のあとが心配という方が多く、相当進行しないと手術に踏み切れないと考えている方が多数おられることと思います。

PPH は痔そのものには手をつけずに痔へ流入する血管を知覚神経のない直腸内で完全に遮断して痔を立ち枯らせるという全く新しい考えに基づく治療法で既にヨーロッパでは主流となっています。その具体的な方法は図の如く、専用の自動縫合器を肛門より直腸内に挿入して自動縫合機内に直腸粘膜を全周挟み込んで切除と縫合を同時に行ってしまいます。従って術後の痛みが格段に少なく、傷が残りません。肛門括約筋には全く触らないので排便機能にも障害が起きることはなく、早期退院・早期社会復帰が可能です。

PPHの流れ

PPH術前   左図の赤いところが内痔核、紫色が外痔核です。

PPH術中   自動縫合器を肛門より挿入し、器械の中に肛門粘膜を引っ張り込んで切離と吻合を同時に行います。

PPH術後   術後は左図の如く内外痔核ともに肛門の中に引き上げられ、時間とともに縮小していきます。 直腸粘膜と粘膜下層を切除して縫い合わせたことにより、痔に流入する動脈が完全に切断され、痔自体を切除しなくとも痔が治ることになります。 肛門には手術操作が及ばないので術後の疼痛もほとんどなく、多くの方は術後 1 ~ 2 日で退院可能で、直ちに社会復帰できます。

 

内視鏡手術

内視鏡手術には、胃内視鏡や大腸内視鏡を使用した小さな手術と、従来開腹や開胸して行っていた一般的な手術を腹腔鏡や胸腔鏡下に行う鏡視下手術とがあります。現在当科で行っている手術の一部を御紹介します。

1. 純粋な意味での内視鏡手術

適応となるのは胃・十二指腸と大腸および胆管の疾患で、以下のようなことが可能です。

1. 消化管ポリープ
ポリープ切除
2. 早期胃癌および早期大腸癌
粘膜切除(EMR)
3. 食道静脈瘤
硬化療法・粘膜結紮術
4. 出血
止血(クリッピング・アルゴンレーザー止血・エタノール注入など)
5. 総胆管結石
乳頭切開・結石摘出

 

2. 胸腔鏡下手術

開胸手術は開腹手術よりも術後の痛みが強く、何年経っても創の痛みに悩まされる人が多い手術ですが、現在では胸腔鏡下にほとんどの手術が可能で患者さまにとっては腹腔鏡下手術以上にメリットが大きい術式です。

●自然気胸

肺に穴があく病気ですが、穴のあいた部分を3箇所の小孔より切除して根治させることが可能です。

●肺腫瘍

肺に穴があく病気ですが、穴のあいた部分を3箇所の小孔より切除して根治させることが可能です。

●その他

縦隔腫瘍や肺気腫の一部も対象となる場合があります。

 

3. 腹腔鏡下手術

慶応義塾大学病院外科の大上によって欧米より導入された腹腔鏡下胆嚢摘出術はあっという間に日本全国に広がり胆嚢摘出の標準術式となりました。当科においては胆嚢摘出術だけではなく、数多くの手術を腹腔鏡下に行っており、現在までに手掛けた手術には以下のようなものがあります。

●食道疾患

食道アカラジア(噴門痙攣症などとも言われています)
  根治手術が数箇所の穴を介して腹腔鏡下に行うことが可能です。

逆流性食道炎
  内科的治療で難渋するケースに腹腔鏡下に胃から食道への逆流を防止する
  根治手術が可能となりました。

食道・胃静脈瘤
  静脈瘤郭清・食道離断

食道癌
  早期癌・一部の進行癌で胸腔鏡と併用することにより手術操作のかなりの部分を
  鏡視に行うことが可能で手術の低侵襲下を進めています。

●肝胆膵疾患

胆嚢結石・胆嚢ポリープ → 胆嚢摘出術
肝嚢胞 → 嚢胞開窓術
脾疾患 → 脾臓摘出
副腎腫瘍 → 副腎摘出

●大腸疾患

大腸・直腸癌
リンパ節郭清を伴う切除が完全に確立されており、大腸の外側に顔を出しているような進行癌を除いては開腹と同様の手術が可能です。

●その他

急性虫垂炎・鼠径ヘルニア等の疾患も腹腔鏡下手術の良い適応です。

●胃疾患

胃潰瘍・十二指腸潰瘍穿孔 → 穿孔部閉鎖
胃十二指腸難治性潰瘍 → 広範囲胃切除
早期胃癌 → 胃部分切除
早期胃癌・一部の進行胃癌 → リンパ節郭清を伴う胃切除や胃全摘

特にこの術式はまだ全国でも施行できる所は極めて限られた最先端医療です。早期胃癌でありながら開腹手術を勧められた場合是非一度当科に御相談ください。開腹手術と同様の手術が数箇所の穴と約5cmの小切開創で行うことができ、術後の回復が早く、将来主流になっていくものと確信しています。リンパ節郭清の範囲を広げることにより対象を一部の進行胃癌にも広げている最中であり、将来はほとんどの進行胃癌も適応となるものと思います。

 

腹腔鏡下胃癌手術

癌は早期発見が大切

癌は性質の悪い(悪性)できもの(腫瘍)の代表的な疾患であることは御存知の方も多いと思います。では、性質が悪いとはどういうことでしょう。

悪性というのはある部位に発生した腫瘍がその部位で育つだけではなく、他の部位に飛び火して育つ、つまり転移する性質のことです。転移する可能性のある腫瘍を悪性腫瘍といい、転移しない腫瘍を良性腫瘍といいます。従って、良性腫瘍はどんなに大きくなってもその腫瘍を切除すれば治ってしまうのに対して、悪性腫瘍は腫瘍だけ切除しても他の部位にまた出てきてしまう可能性があるわけです。しかし、逆にいえば転移してなければ悪性といえども腫瘍を取るだけで治癒するというわけです。癌治療は早期発見が大切と言われるのはこのような理由からです。

癌の転移

では転移にはどのような形式があるのでしょうか?
胃癌の転移形式の代表的なものは以下の3つの形式です。

1. リンパ行性転移

癌細胞がリンパ管に入り込むと胃の周囲のリンパ節に流れていきます。そこではリンパ球が癌をやっつけようと闘ってくれますが、癌細胞が打ち勝つとそこに癌の転移巣が形成されます。するとまたリンパ管の中に入ってより離れたリンパ節へと癌が流れていき、そこでも同様のことが繰り返されるのです。 現在までの膨大なデータから胃癌が出来た部位によって最初に転移が起こる確率が高いリンパ節を1群リンパ節といい、1群リンパ節に転移病巣が形成された後に転移が起こる確率が高いリンパ節を2群リンパ節と呼びます。 手術で切除できるリンパ節は一般的に3群リンパ節までで、それより離れた部位の転移に関しては外科的治療では治す事が出来ません。

2. 血行性転移

癌細胞は血管の中にも入り込んで、胃癌の場合には肝臓や肺に転移病巣を形成することが少なくありません。大腸癌などでは肝臓や肺への転移も切除できれば治ることは珍しくありませんが、胃癌の場合には肉眼的に転移病巣を切除できたとしても再発率が高く、治る可能性が低いのが現状です。

3. 播種性転移

癌は胃の内側の粘膜という部位で発生します。大きくなると横にも広がったり、胃の内腔に盛り上がってきますが、このような増殖は癌の進行度とは無関係で、癌の進行度は胃の壁のどの深さまで癌が食い込んでいるかということで決まります。 胃には食べ物を消化しやすくするために腸管などより分厚い筋層があります。筋層にまで食い込んだ癌を進行癌といい、筋層に達していない癌を早期癌と言います。さらに進行してくると癌は胃の外側の膜である漿膜を貫いて、腹腔内に散らばってしまうことがあります。 この転移形式を播種性転移と呼び、現在の医学ではこの状態になると例外を除いて手遅れです。


少し話が複雑になったかも知れませんが、このような転移形式が癌の進行度と相関してくる為に胃癌の手術も進行度に応じて変化してきます。簡単に言うと内視鏡下胃粘膜切除→腹腔鏡下胃部分切除→胃切除+1群リンパ節郭清→胃切除+2群リンパ節郭清→胃切除+3群リンパ節郭清+他臓器合併切除と進行度に応じて切除範囲が広がっていきます。このように書くとお気づきの方もいらっしゃると思いますが、胃癌の手術のポイントは胃をどれだけ取るかという事と、治るチャンスのある転移であるリンパ節をどこまで取るかという事に集約されてきます。この選択は残念ながら、施設によりバラツキがあり、患者さまは受診する施設によって、必要以上に胃を切除したり、逆に十分なリンパ節切除が受けれず、再発率が高くなったりすることが有り得るわけです。このような施設によるバラツキを是正するために2001年3月、日本胃癌学会は進行度別に見た治療法の選択のガイドラインを発表しました。

 

さらに先進的な治療に関しても現時点での一定のガイドラインを提案しています。その先進的な治療として一部の早期胃癌に対する腹腔鏡下胃切除・リンパ節郭清が組み込まれました。

 

我々はこのような早期早癌に対する腹腔鏡下手術をさらに一歩進めて、一部の進行胃癌も対象とした2群リンパ節郭清を伴う胃切除に取り組んでいます。その一部を写真で御紹介しましょう。

 

胃癌に限らず癌の根治手術は病巣を十分に切除することと最初に転移する率が高いリンパ節を進行度に応じて切除する事が基本である。胃癌の郭清範囲は3次元的であるため、当初はEMR(内視鏡的粘膜切除)で切除しきれない一部の早期胃癌に対する部分切除(慶大・大上らのlesion lifting 法)や腹腔鏡を胃内まで挿入し、より広範な粘切除を行う方法(阪大・大橋らの胃内手術)を行っていた。

 

しかし、腹腔鏡下手術手技に熟練したことで安全な郭清が可能と判断し、EMR適応外の全ての早期胃癌に対する1群+7番リンパ節郭清を伴う胃切除を1998年より導入し、現在では確実な2群郭清手技の確立をめざしています。この手技の確立により胃の漿膜面に癌が露出していない全ての進行胃癌を腹腔鏡下手術の対象とすることができると考えています。この2群郭清術式は2001年9月に日本内視鏡外科学会のランチョンビデオセッションに発表しました。さらに当施設では折角腹腔鏡で創痛を少なくしたとしてもダンピング症状や小胃症状があっては低侵襲手術とは言えないと考え、小腸を用いて代用胃を作成して残胃と十二指腸の間に間置するPouch 術式を6cmの小開腹創より行う方法を確立し、2001年7月の日本消化器外科学会のポスターセッションに発表しました。

 

大腸癌手術でも痛感することであるが、腹腔鏡下の胃切除では手術時間こそ、まだ開腹手術より長くかかるが、創痛の軽減効果は目を見張るものがあり、術翌日より嘘のように歩行可能で、美容的な問題や術後のスポーツなどに有利だというだけではなく、術後創痛から喀痰排出が困難となり肺炎や無気肺などを引き起こす危険も著明に軽減するものと考えています。


内視鏡手術(1)   リンパ節は胃の周囲の動脈に沿って存在しています。腹腔鏡下手術の技術が進歩した結果、典型的な2群リンパ節郭清が図1の如く主要な動脈を丸裸にするようなレベルまで可能で、2群までに限れば開腹手術と遜色の無い癌の手術が可能になりつつあると考えています。

内視鏡手術(2)   腹腔鏡下手術の第1の特色は傷が小さいことで、胃を 2/3切除して2群リンパ節郭清を行うと開腹手術では、みぞおちから臍の下まで30cm位の大開腹が必要でした。美容的にも創痛の面からも根治性を損わない限り、腹腔鏡下手術が勝っているのは明らかといえます。

内視鏡手術(3)   傷が小さくても胃切除により食事が十分に摂れなくなってはどうしよう無いので我々は小腸で代用胃を形成する方法を多用し、食事面からも体にやさしい胃癌手術を追及しています。

内視鏡手術(4)
食残が全くない。
  内視鏡手術(5)
十分な胃容量が保たれている。
  内視鏡手術(6)
吻合部の通過も良好。

 
代用胃を術後に検査すると前日の食物が残ること無く、十分な容積が保たれていることが判ります。多くの施設で行われている残胃と十二指腸をただ繋ぐ術式よりはるかに優れた術式と考えています。